どんなことしてるのという質問に答えて
私がいるところは「物性研究所」というところなんですが、「物性」というと「物の性質」です。物の性質と言えば、例えば、物の見え方つまり色(光吸収・発光)とか、電気の流れ易さ(電気伝導度)とか、磁石にくっ付き易さ(磁気特性)とか、いろいろあります。触ったときの感触、例えば、柔らかさ(弾性)や冷たさ(熱伝導)なども物性と言えます。そこで、このような様々な物の性質を評価し、なぜそうなるか仕組みを考え、さらにはこれまでの知識を基にして、欲しい物性を示す物を作り出すのが、我々の研究所のミッションと言えます。
ただ、物と言っても、その中身は均一ではありません。多くの物はさまざまな元素で出来てますし、その分布が一様とは限りません。物を構成する原子の並び方も物の中では場所によってさまざまです。電気の流れ易さも、細かく見れば、電気がすごく流れるところとそうでないところが混じっているかもしれません。そのような状況で物を評価するには、物を拡大して細かく見ることができる顕微鏡がすごく有効です。そこで、私のグループでは原子一個一個が見えるくらいまで拡大して物を観察できる顕微鏡・走査トンネル顕微鏡を使って研究しています。
この走査トンネル顕微鏡ですが、原子が見えるくらいまで拡大できるというのが最大の特長です。が、それに加えて、物の性質(つまり「物性」ですね)まで見ることが出来るという点で優れています。例えば、超伝導という究極的に電気を流し易い性質を持つ物が世の中にはあるのですが、走査トンネル顕微鏡を使うと、どこが超伝導になっていてどこが壊れているかとか、ここの超伝導はちょっと弱っているとか、といった超伝導の拡がり具合や分布が、原子が見えるくらいまで拡大して見てあげることができます。どう分布しているかなんて、物の両端にリード線付けて電気抵抗を測っただけでは判りません!
磁石の性質もそうです。うちの助教さんがこれのプロなんですが、磁石にくっ付くかどうかの性質が物の中でどう分布しているかが、走査トンネル顕微鏡を使えば原子が見えるくらいまで拡大して見ることができます。こうした測定から、物の中の本当に肝心な部分の本来の性質が調べられることもあります。また、物全体の性質から、細かく見てあげるとこうなっているハズだというようなことは、多くの人がこれまでに予測していますので、そうした予測が合っているかどうかを調べてみたり、あるいは予測から外れた部分を見つけたりすることも仕組み解明には重要です。
こんなふうに、拡大して物の性質を見てあげることによって、全体の性質を測っただけでは判らないことを見出し、物の性質の仕組みを明らかにしていくことを目指していろいろやってますというのが、ウチの研究室のお仕事です。